2010年6月5日

ボサノヴァの神様

このブログの読者のなかには「ボサノヴァの神様」などと書くとすぐにジョアン・ジルベルトのことを思い浮かべる方も多いかもしれない。でも、これはそういう創世神話のことではなく、どちらかというともっと情けない、ショボいものの話である。
その超自然的な存在が、私のところへ突然やってきたのは数日前のことだった。
薄汚い灰色の服を着ており、一見してありがたい神様というより、貧乏神のよう。
だが、私の右手に触ったかと思うと「そこは逆だね」と小さな声で言い、じっと私の目を見つめたのだ。視線にはちょっとした憐れみというか、どんよりした鬱な気分が漂っていた。
私は、悲しくなってすがるように言う。
「十年もギター弾いてきたんです。もう、どこにも行かないでください!」
すると神様はますます気の毒そうな顔をして、しかし何も言わず、そこにごろんと寝転がった。ぷーんと鼻につくような臭いが漂ってきたが、私はギターを弾き続けた。

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