2008年9月30日

ジルベルト・ジル(2)

ジルベルト・ジルの真似はできないと前に書いたが、悔しいので一応やってみた。

Aquele Abraco 演奏&歌 by OTT

「アケリ・アブラッソ」とは抱擁を意味し、リオ・デ・ジャネイロでは別れの挨拶がわりに使われるらしい。
ジルベルト・ジルが故国を追われ、イギリスへ亡命する前に書いた代表曲で、リオという街への愛情がこめられている。
これだけ聞くと、「まあ、いいんじゃない?」と思われるかもしれないが、
やってるほうは、本当に苦しい。なんというか、音楽が「自分のもの」にならない感じなのだ。

参考のために、ご本尊の演奏も。


ちなみに私の妻はジルベルト・ジルについて、珍しくこのように論評していた。
「音楽が簡単に国境を越えるというのは、たいてい嘘に思える。
だが、ジルは確かに越えている」
どこかの偉い評論家が書いた文句みたいで面白いので、書き記しておこう……。

ボサツノバ・ライブ


前にもこのブログでちょっと触れたアーティスト、ボサツノバ。
こんど「だあしゑんか」でライブをやってもらうことになった(10月26日)。

「ボサノヴァ弾き語りをするお坊さん」で「菩薩ノバ」というと、
なんだかただの冗談にしか思えないかもしれないが、
ぜひ、騙されたと思って一度体験してほしい。

あらゆるジャンルのカヴァーや替え歌、オリジナルが融合し、
驚きや笑いとともに音楽そのものの楽しさが感じられる演奏と歌は、ちょっとした言葉だけじゃ説明しにくい。
私が知る限り、今、東京近辺でもっとも刺激的な弾き語りだ。

菩薩ノバHP

2008年9月12日

ジルベルト・ジル

昨夜、ジルベルト・ジルの来日公演にいってきた。
素晴らしかった、美しかった、楽しかった。
このバンドは、ベースやリズムセクションがすごくて、
その安定感のなかで、ジルは思い切り自由にはじけているように見えた。
音楽が一人の人間のなかからわき上がってくるのを目撃する楽しさ。

もしかしたらジルベルト・ジルという人はあまりにその内なる音楽性が豊かすぎて、
アーティストとしての顔が分かりにくく、日本ではそれほどファンが多くないのかもしれない。
レゲエ好きとかボサノヴァ好きとかサンバ好きとか、
悪しき「ジャンル性」に邪魔されてしまっている部分もあるかもしれない。
実際のところ、今回のライブもレゲエでビートルズやったり、イパネマの娘をやったり、
サービス精神旺盛ではあるが下手すると「余興」に見えなくもない部分が結構、多い。

個人的に、ジルベルト・ジルの曲をよく演奏してみるのだが、
それは非常に難しい。私の能力のなさと言ってしまえば身も蓋もないけど、
この難しさと彼の音楽がもつ特異性は、何やら通じるものがある気がする。
実際、ジョアン・ジルベルトやカエターノ・ヴェローゾの「スタイル」を真似てみる日本のミュージシャンはいくらでもいるけど、ジルの物真似は今まであまり目撃したことがない。

ところで、途中、プレゼンターの宮沢和史を迎えて「島唄」を歌うという、それこそ「余興」があった。
ジルがどんな風に歌うか、興味津々だったのだが、宮沢氏のねっとりとした熱唱により、あまりちゃんと聴けなかったのが残念だ。演奏も、よかったのに。
こういう場合、ブラジルの大物ミュージシャンだったら、
「ジル、僕のつくった曲を歌ってくれて、ほんと感激だよ!」みたいな嬉しそうな顔をして、
その演奏を堪能する「フリ」くらいはするだろう。
日本とブラジルの違いなのか、ミュージシャンの格の問題なのか。
(注:私は宮沢和史が嫌いなわけではありません。彼の歌はよくカラオケで歌うし。強いていえば、歌い方が苦手です。)

2008年9月10日

50周年と100周年

今年はボサノヴァ誕生50周年らしい。
ついでに、日系ブラジル移民100周年でもある。
どちらが社会的に重要かといえば、もちろん移民のほうだろう。

というわけで、こんな本を読んでみた。
細川周平『遠きにありてつくるもの--日系ブラジル人の思い・ことば・芸能』



力作である。
第Ⅰ部では短歌や俳句、川柳といったものから日系人が抱いた祖国への「郷愁」を分析。第二部は、「借用語」「弁論大会」のほか、日本人とブラジルの先住民(ツピ)が同じ祖先をもつというトンデモ説を展開したおじさんの話など、「移民の言葉」がテーマ。第三部はオペラ『蝶々夫人』を歌った「バタフライ歌手」、カーニヴァル、そして浪曲といった芸能について。どれも、この本でしか読めない貴重な資料を紹介しながら、独自の視点で移民史を語っている。
音楽などを通して、ある程度ブラジル文化について関心のある人なら、たとえば「借用語」の用例や、日系人とカルナヴァルの関係は実に興味深いはずだ。もっとも、大戦後の「勝ち組負け組抗争」など、移民史やブラジル文化史について基本的な解説をすっ飛ばしているところもあり(他の本で読めということだろう)、いきなり一冊目として読むには暗黙の前提としている部分が多すぎるような気がしないでもないが。
とにかく、私にとっては非常に面白い話ばかりなのだが、他人に勧めるには興味が個人的すぎるようにも思える。最後の浪曲の部分などは、読みながら、私もこういう「語り物」をいつか作ってみたいという思いを強くした(勝手にしろ!)。
あと、カルナヴァルの項で紹介されていた、日系移民をテーマにしたパレードの映像がyoutubeにあったので、備忘録的にリンクを貼っておこう。
(内容が濃すぎて、とりとめのない紹介になってしまい、すみません)



ついでにもう一冊。
しりあがり寿『人並みといふこと』




しりあがり先生は、私のなかでは同時代を感じつつ、心から尊敬できる数少ないクリエイターのひとりだ。リスペクトの嵐。
気軽に読めるエッセイ集。とはいえ、中身は結構暗い。本人は「スウィート・ネガティブ」とか言ってるが、自分でスウィートとか言ってていいのか(笑)? とも思うが、ご本人も苦笑しながら格闘している感じが素晴らしい。
(尊敬が大きすぎて、とりとめのない紹介になってしまい、すみません)