2010年12月20日

伝統、あるいは元本保証

突然変異はランダムに起きるし、生命は否が応にも変わっていく。
そして生命の巧妙さは気の遠くなるような時間によって生まれた奇跡だ……。
そう教えられてきたような気がするが、なんとなく変だなとは思っていた。
「神の手」とまではいかないまでも、自然はもうちょっとだけ「意識的」であり、「方向性」や「傾向」のようなものが少しはあると感じられた。

進化のメカニズムなんてどうでもよいことではあるだろうが、気になるのは、やはりそれが文化や社会のメタファーとしてかなり力をもっているからだろう。
たとえば私はスポーツニュースなどで多用される「進化」という言葉がどうも好きになれないのだが、それにもたぶん理由がある。
私たちは日々喩えや擬人化の世界を生きているわけだ。

「元本保証された多様性の創出」を基本とする「不均衡進化論」は、まだ主流の理論としては認められていないのかもしれないが、非常にシンプルで妙に腑に落ちるところがあった。
生物学的な説明は私には難しいので、あくまでも文化的に譬えると、かなり身も蓋もない話となる。
伝統はちゃんと守りながら、新しい試みはどんどんやっていく、いわばメリハリをつけるという、ごく当たり前の話。
常に変わり続けるばかりが能ではないというのがポイントだろうが、どこかに伝統をしっかり守っておけば、あとは失敗してもいいからどんどんチャレンジしようね、という部分を強調することもできる。あるいは、変化は常に一定の速度で起きるというより、起きるときにまとめて起きるというというところも重要だろう。
それはともかく、私のような無駄の多い変異のほうにばかり心惹かれ、どちらかというとリスクの高い投資を好むタイプでも、誰かがどこかで「元本保証」をしていると思うと、心安らかに好き勝手をしていいよと言われたような安心感があるのだ(笑)。

2010年12月8日

カエターノ特集その2

歌詞がしっくりこないのでレパートリーから外れていた「サンパ」をなんとかしようと悪戦苦闘している。
大好きな曲なので、本当はいつもやりたいのだ。
とりあえずひと段落したが、また変えたくなるかもしれない。
http://ott.sakura.ne.jp/ottnet/songs/sampa.mp3

あと、もうひとつは「オダラ」。
これは初録音かどうか、よく覚えてない。
http://ott.sakura.ne.jp/ottnet/songs/odara.mp3

サンパ
何かが心のなかではじける
交差点の真ん中 立ち止まる
あの頃 途方に暮れていた
街角から コンクリートの詩が響く
みすぼらしい 女たちの装いは
あの頃 知らなかったリタ・リー
あなたの歌 まだなく
何かが心のなかではじける
大通りの真ん中 立ち止まる

この街 初めて向き合ったころ
鏡のなかには 醜いもの
昔馴染みの 顔はなく
見知らぬ何か 恐れ抱いて
ガラスの街 立ちつくす ナルキッソス
都会に幸せな夢を見れば
やがて現実となるのに
だけど僕にはそれも出来ずに
鏡の奥の裏の裏へ

果てなく続く列 貧しい人
お金の力 壊された美しさ
星空も消える 煙のよう
深い森から やがて現れる
この街を称え 雨降らす神々が
サンバが響く ユートピアとしてのアフリカ
新しい国 キロンボ・ド・ズンビ
そんな可能性を思いながら
霧雨のなか 少し夢を見る

2010年12月3日

カエターノ特集

最近、カエターノ熱が再び地味に盛り上がってきたので、いくつか録音してみた。
まずは、「インディオ」。
確かだいぶ前にライブで何回かやった記憶はあるが、録音したのは初めてだと思う。
自分でも感心するくらいの珍妙な録音。ある意味、これまでで最高の出来かもしれない(笑)。

http://ott.sakura.ne.jp/ottnet/songs/indio.mp3

これができたのは、ちょうど昨日、都内某所でDoces BarbarosのDVDなどを見てトロピカリア・スピリット(?)をいただいてきたお陰かも……(シャクリーニャのドキュメンタリーも見せていただき、これもとても面白かった。勝手ながら、誘っていただいたMさんにこれを捧げます!w)。

インディオ
七色に輝いているあの星から
目の眩むような速さで君は降りてくる
南の大陸の真ん中で静かにその目を閉じて息を吸う
最後のインディオの国が滅びた後で
鳥たちの心 透明な水の滴
あらゆる文明よりもはるか前をはるか先にはるか遠く

今 その勇気を モハメド・アリに 垣間見る
誇り高きグアラニの 物語
沈黙と正義はブルース・リーの記憶に
音はリズム、フィリョス・ヂ・ガンディーと 今

確かな肉体のなかに彼はいる
すべての気体と固体と液体のなかに
あらゆる言葉、心、匂い、光と陰、色と音の磁場に
ふたつの大きな海から等距離の場所へ
輝く星から降りた一人のインディオ
この世の物事を明快な言葉で語ってくれるだろう

その瞬間に人々は初めて知るだろう
誰もが目を開き気づき驚くだろう
かけがえのない他者という名の自由が今もそこにあることを


もうひとつは新訳で「Ca Ja」。
http://ott.sakura.ne.jp/ottnet/songs/caja.mp3

一握の砂 一粒にも 光の渦が 見えるだろう
波のあとには 新たな色 溢れる愛が 見えるだろう

今ここは花よ石よいつか
今ここは時の甘い蜜が
高らかな鳥の歌、今

大いなる時 小さな音 妙なる響き 聞こえれば
風鳴らす海 羽ばたく土地 心の動き 聞こえれば

今ここは花よ石よいつか
今ここは時の甘い蜜が
高らかな鳥の歌、今


カエターノをやるとどうも固い感じの訳になってしまう。もう少しやわらかい言葉でそれらしい雰囲気を出せればいいなといつも思っている。
「一握の砂」はやりすぎかもなあ、と思っている。しかし正直、どうしたらいいのかよく分からないのだ……。