2008年10月3日

ナショナリストのサンバ

Canta Brasilという曲を録音してみた。

As selvas te deram nas noites seus ritmos barbaros
Os negros trouxeram de longe reservas de pranto
Os brancos falaram de amores em suas cancoes
E dessa mistura de vozes nasceu o teu canto

というのが最初の部分。面白いので、直訳ぎみに訳すことにした。

深い夜の森に響くリズム
黒い肌が歌う悲しみ、涙
白い肌、ささやく恋の歌
まざりあうたくさんの声

サンバの歌詞には、こういうものがけっこう多い。
ブラジル万歳調。しかも観念的、抽象的なやつ。
いくつかは、ボサノヴァのレパートリーとしてもよく歌われる。「ブラジルの水彩画」なんかも、その一例だろう。
ここで歌われている人種の混合は、ほとんどブラジル国家の「公式見解」であり、
たとえていうなら「平和国家、日本」みたいなお題目、理想である。
実際のところ、ブラジルにも人種差別は当然あるわけだが、サンバという夢の世界では、それは消えてしまっているのだ。
私のような日本人がこういう歌に惹かれるというのも、ヘンテコな話ではある。
(たぶん日系人は、この「黒い肌」「白い肌」が生んだサンバの世界に、簡単に入れてもらえないだろう。)
とはいえ、そういう胡散臭さをはらみながらも、こうした愛国サンバの魅力は否定しがたい。
ブラジルは、サンバという大衆音楽の一ジャンル(にすぎない、しかも被支配層の)を、いわば国家のアイデンティティ、象徴として採用した稀有な国だと思う。
このほとんどアクロバティックともいえる出来事は、たとえばジャズやロックをいつのまにか横取り(?)してしまったアメリカの白人と比べると、より際立って見えると思う。
ブラジルの支配層がなんでこんなことをやったのか、私には正直いってよく分からないのだが、このことがブラジル音楽の特別な面白さにつながっていることは、ほぼ間違いないだろう。

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